スピンコート法は、以前から研究開発分野や生産工程で使用されてきた、成膜加工を行う方法のひとつです。このページでは、スピンコート法の基礎知識や成膜の流れを解説しています。
スピンコート法とは、スピンコーター、またはスピナーと呼ばれる機械を用いて成膜加工を行う方法です。
スピンコーターで塗布対象物の中心付近に垂らしたコーティング液を高速回転させ、発生した遠心力によって薄膜を作ります。高速回転する機構があればスピンコーティングできるため、コンパクトで設置場所を取らない利点があります。
また、ナノオーダーの薄膜から数10ミクロンと、幅広い厚みの成膜が可能。真空を使わず遠心力で膜を形成するため、成膜コストがかからず成膜スピードが早いのも特長です。
ただ、遠心力での形成はコーティング液のロスが大きいほか、複数枚の処理ができないため、複数枚同時処理ができるディップコーターに比べて生産性が低いデメリットがあります。
まず、スピンコーターのステージ上に塗布対象物を固定して、その中心にコーティング液を吐出します。その後、ステージを回転させる処理を行います。回転数を徐々に上げていくと、コーティング液が遠心力で除去されていきます。
それに伴い粘度が上昇していき、コーティング液が動かなくなります。回転速度が速く、時間が長いほど薄膜を形成できます。
コーティング液が動かなくなったらスピンコーターから対象物を外し、熱風乾燥炉や紫外線硬化装置を使って乾燥・硬化させて薄膜を作ります
他のウェットコーティングとは異なり、ほとんどの溶剤成分は高速回転の工程で遠心力によって除去されます。
そのため、最終工程での膜厚の変化が小さいのもスピンコート法の特性です。
スピンコートによる成膜は、回転速度とワーク上の液の厚み、液の動粘度、回転時間が深く関係していますが、特に膜厚の精度を握るのがスピンコーターの回転速度です。
一般的な成膜では、回転速度が速いと薄い膜になり、回転速度が遅いと、反対に厚い膜となります。
多くの場合、膜厚は最高回転速度の時の厚さで決まります。回転時間を長くした場合にも膜厚が変化することはありますが、最終的には一定の膜厚に収束するため、時間よりも回転速度の精度が重要です。
つまり、スピンコート法では回転速度を保てるかによって、成膜の精度が左右されます。回転速度が一定でないと、同じ成膜作業を行ったとしても同じ膜厚を再現できず、異なった成膜結果となってしまうのです。
そのため、低速回転の段階で液を行き渡らせ、徐々に回転数を上げていきターゲット膜厚が得られる高速回転に移行します。
他にも、塗布する液体の温度も膜厚に影響を与えます。液の温度が上昇すると粘度が上昇し、液の拡がり方や膜厚に変化が起こるためです。スピンコート法では液体の温度をいかに変化させるコーティング処理ができるかも重要となります。
最終的な膜厚は、スピンコーターの回転速度や液体の粘度、温度変化によって変化します。デリケートな基板や薬液ほど少しの変化でも膜厚が変わってしまうため、スピンコーターの性能はもちろん、膜厚に「ムラ」ができない条件を設定することも大切です。
膜厚を均一にする方法として、スピンコーターには以下のような機能が備わっています。
手動で液を垂らす方法だと、どうしてもブレが発生してしまいます。自動滴下は、滴下量や滴下位置を揃えるための機能です。滴下量と滴下位置を均一にすることで、仕上がりの膜厚も均一にすることができます。
連続運転による温度の上昇を抑えるために、スピンドル部をチラー水で冷やす方法です。温度変化の原因となる排気を取ることで、温度変化を抑えて均一な膜厚の形成につなげることができます。
半導体や金属、レンズの製造など、幅広い分野で使用されるスピンコーターは、塗膜の形成だけでなく、半導体の基板洗浄などに用いられるスピンエッジングや乾燥コーティングにも利用されています。
さまざまな用途向けのスピンコーターがあり、薬液の粘度や性質、材質やサイズに合わせたスピンコーターを選ばないと、膜厚を均一に保つことは難しく、効果的な成膜加工ができなくなってしまいます。
加工するものによってはスピンコーターを特注しなくてはならない場合もあり、多額の予算がかかるケースもあります。
自社で成膜加工が難しい場合や予算的にスピンコーターの導入が難しい場合、成膜加工を行う会社に依頼するのもひとつの手です。
成膜加工に実績のある会社であれば、依頼したい膜厚や加工したいものなど要望に合わせたスピンコートを行ってくれますし、スピンコート法よりも適した成膜加工についてアドバイスしてくれる可能性があります。