薄膜技術の一つである「真空成膜(スパッタリング)」について、品質や課題を見ていきましょう。
真空成膜は、半導体のウェハプロセスで使われる薄膜技術の代表的なものです。液晶ディスプレイやLEDなどで使われる「透明導電膜」も真空成膜で作られており、主に電子部品などで多く使われています。
真空成膜で作られている薄膜は、光の制御や表面の強化・保護といった目的を持ちます。電子回路を作るための材料として、電気の流れをコントロールすることが大きな目的になるため、細かい回路に正しく電気を流すために、薄膜の質が試されます。
「電子回路の導電性脳は、薄膜の導電性(電気伝導度)×薄膜の膜厚×薄膜のパターニング幅」という基準で決められています。もちろん導電性が高ければ高い方が良いというわけではなく、例えばタッチパネルを作るのであれば、電気抵抗が高くないとうまく機能しないといった特徴があります。
成膜の導電性は、薄膜に用いる材料の種類によって細かく決められていきます。例えばITO(サンカインジウムスズ)という透明導電膜材料だと、酸化スズの量によって膜の導電性が変化します。成膜の条件は、真空成膜の際に使うガスの種類によっても導電性が変化します。酸素ガスを入れると導電性が良くなる一方で、入れすぎると導電性が悪くなってしまうため、酸素ガスの量を適切に調整することが大切です。
また、膜厚やパターンの線幅によっても出力パワーや処理時間、加工のされやすさが異なるため、成膜の電気的性能は成膜条件や材料種などによって大きく影響を与えられている、ということになります。
真空成膜の品質は、最終的に作られる回路の動作に直結することになります。薄膜を作成すれば電流をコントロールできるようになりますが、これには薄膜の厚さや均一性といった点が非常に重要になります。
例えば電気を通すように薄膜を作成しても、膜が厚ければ電気が通りづらく、逆に薄すぎれば電気が通り過ぎてしまいます。また、膜が不均一に張られていれば、電気の通る部分と通らない部分でムラができ、製品が正しく動作しません。
薄膜は大変に薄くできており、回路パターンは大変細いのが特徴ですから、外から物理的な力を受けることで切れたり剥がれたりすることも在ります。また、電気を流し続けることでも影響を受けるため、薄膜の存在は製品としての信頼性に強くかかわるのです。
薄膜が原因として挙げられる不具合の一つは「剥がれ」です。薄膜は基板の上に堆積することによって、初めて薄膜としての機能を果たします。もし基盤の表面が汚れていた場合、膜は上手くくっつかないでしょう。目に見えるゴミや汚れだけではなく、基板の表面に水分子がくっついているケースや、最表面が変質しているケースなども、剥がれの要因となります。
そのため基盤と製膜する材料に適した、前洗浄処理を厳選する必要があります。密着力を高めるために表面の改質や、密着層の付与といった判断も時には必要となるでしょう。真空成膜の技術の利点として、表面改質や密着層を1つの装置で同時に付与できるという方法で対処が可能です。
また、薄膜や基盤には「膜応力」というものがあり、これが強いと少しの刺激でも、せっかく付けた膜が剥がれたり割れたりすることもあります。膜応力は成膜条件によって細かく調整することが可能ですが、様々な要因で変化するため、微細な調整が必要です。
製作した薄膜の電気的性能に着目するだけではなく、薄膜の性能や信頼性も確保しなければなりません。また、製造業として健全な財政状況を築き上げていくためには、それらを生み出すためのコストにも着目が必要です。
真空成膜技術は、塗装・めっきといった技術と比べても、装置自体の価格やランニングコストが高くなりがちなのが特徴。材料の種類によってはさらに高額になりますから、可能な限り安価な技術への置き換えが重要になります。
また、薄膜は常に基盤と共にあるという点から、薄膜の品質不良はその前工程である基板まで含め、全ての製造コストのロスに繋がります。こうした面も踏まえた上で、信頼性とコストの両立を目指した製作技術の確立と、適正化が求められます。
薄膜は製作環境や装置だけではなく、技術者の学んできた薄膜の基本原理についての知識や、実際に培った実績が品質を大きく左右します。依頼会社を選ぶ際には、装置や環境の充実さだけではなく、技術者の実績や会社としての経歴などもよくチェックしましょう。